原稿を寄稿しました

昼間自由行動下血圧自由行動下血圧栃木銀行発行の栃銀いきいき倶楽部
『いきいき』vol.34(2009・秋号)およびvol.35(2010・春号)にて
高血圧診療および心房細動についての原稿を寄稿いたしました。
今回は第一回の高血圧診療の原稿を記載します。

「高血圧診療ガイドライン」が新しく改定されました

『いきいき』vol.34(2009・秋号)

■はじめに
現在の日本では人口の高齢化が進み、「高血圧」の患者さんが増え続けています。国内の患者数は約4000万人との推計もあり、まさに国民病といえます。「高血圧」とは、文字どおり、血圧が高い状態を意味しています。自覚症状がほとんどないのですが、血圧が高い状態が続き、心臓や脳、腎臓、全身の血管などに負担がかかり続けると、ある日突然、「心筋梗塞」や「脳卒中」など、命にかかわる「心血管病」を引き起こすことがあります。そのため、高血圧は「静かな殺し屋(サイレント・キラー)」ともよばれています。日本高血圧学会は、本年1月、新しい高血圧の診療ガイドラインを発表しました(「高血圧診療ガイドライン2009」)。これを基に、いくつかのポイントを述べさせていただきます。少しでもみなさんのご参考になれば幸いです。


■自分の本当の血圧を知る
以前は、医療機関で測った「外来血圧」をもとに「正常血圧」と「高血圧」の2つに大きく分けられていましたが、家庭用血圧計の普及に伴い、さまざまなタイプがあることがわかってきました。血圧は、外来血圧と自分で測る「家庭血圧」で、大きく次の4つに分けられます。

(1) 高血圧:外来血圧、家庭血圧ともに高い状態です。外来血圧の場合は、「収縮期血圧140mmHg以上、または拡張期血圧90mmHg以上」ですと高血圧と判定されます。家庭血圧は外来血圧より基準値が低く、「収縮期血圧135mmHg以上、または拡張期血圧85mmHg以上」が高血圧に分類されます。


(2) 白衣高血圧:家庭血圧は正常なのに、外来血圧は高くなるタイプです。通常、すぐに治療する必要はありませんが、白衣高血圧の約3分の1は、将来本当の高血圧に移行するといわれていますので、「高血圧予備軍」として経過観察が必要です。


(3) 仮面高血圧:白衣高血圧とは反対に、昼間に測る外来血圧は正常で、朝や夜に自分で測ると高血圧になります。治療が必要なタイプで、40歳以上の約10%が仮面高血圧という報告もあります。


(4) 正常血圧:外来血圧と家庭血圧のどちらも正常なタイプです。


「白衣高血圧」や「仮面高血圧」は、家庭血圧を調べなければわかりません。自分がどのタイプなのかを知るうえでも、家庭での血圧測定が重要です。

■仮面高血圧の種類は?
仮面高血圧には、起床する時間帯に血圧が高くなる「早朝高血圧」と、昼間に血圧が高くなる「職場高血圧」があります。心筋梗塞や脳卒中は、朝の血圧上昇が関係するといわれ、仮面高血圧の1つである「早朝高血圧」は特に注意が必要です。「職場高血圧」は仕事の最中だけ血圧が高くなります。慢性的なストレスや疲労が原因で、加えて喫煙が血圧上昇を促すこともあります。


■睡眠時無呼吸症候群について
睡眠時無呼吸症候群は、睡眠中に、「いびき」とともに何度も呼吸が止まる病気です。睡眠時無呼吸症候群のある人は、高血圧などの生活習慣病を合併することも多いので、注意する必要があります。


■家庭血圧測定の重要性
今回の改訂で特筆すべき点は、家庭で測定する際の高血圧の基準値や降圧目標値が明確化されたことです。表1に「異なる測定法における高血圧基準」、表2に「降圧目標」を呈示します。家庭での測定値の方が診察室での測定よりも、高血圧に伴う脳卒中や心血管病などを予測する精度が高いことが知られています。当院におきましても「家庭血圧」に基づいた高血圧診療を実践しています。


■自由行動下血圧計(24時間血圧計)
昨年から当院におきましては、自由行動下血圧計(24時間血圧計)を購入しまして、現在、積極的に利用しています。この装置は、通常30分間隔で、血圧を測定するもので、夜間も含め24時間の血圧変動を正確に測定、評価することが可能です。


■心エコー検査・頚動脈エコー検査の重要性
従来、本邦におきましては人間ドックなどを中心に「心電計」が広く用いられてきましたが、心臓の精密検査という点におきましたは、やはり心エコー検査が極めて重要です。心臓の機能や形態を短時間の内に判断することが可能です。更にカラードプラー法を利用して弁膜症の診断も可能です。高血圧症の患者さんにおきましても心肥大の有無や心機能の評価、更に弁膜症の有無などの診断を定期的に行うことが重要と思われます。不安定狭心症や、急性心筋梗塞の診断におきましても極めて有用です。頚動脈エコーも最近多くの施設で実施されるようになってきました。比較的初期の動脈硬化を発見することが可能です。


■おわりに

高血圧診療における問題点として、高血圧未治療者の割合は高く、特に若年者では8-9割にのぼるといわれています。また、高血圧者のうち、約半数が管理不十分と推定され、より強力な高血圧管理が必要と考えられます。ご自身の血圧を含め、ご家族の皆さんや、職場の同僚の方々の血圧値が少なくとも140/90mmHg未満に抑えられますと、脳卒中の発症率もかなり低下するものと思われます。どうか周囲の方々の血圧値にも注意していただけますと幸いです。

【表1】異なる測定法における高血圧基準

1567422645369

【表2】降圧目標

1567422664602

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